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消えた選択肢

つぶやき
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退職せざるをえない状況になった。家族の都合で。

この「家族の都合」はいつか来るのは分かっていた。むしろ家族としては待ち望んでいたと言って過言ではない。だけど「私が退職をせざるをえない状況」の可能性は考えていても、私は実際そうなった時を覚悟できてはいなかった。たぶん。

産休に入るまで7年半勤めた今の会社には、正直、色んな不満があった。

でも辞めることが確定した今振り返ると、その不満の記憶が霧散する。

私は良い同僚に恵まれ(変な人もその半分くらいはいた)、尊敬できる上司にも出会い(悪い上司にも当たった)、その人たちが私のそう大したこともないクリエイティビティを評価してくれた。

時に会社の顔にもなる大きな仕事を担当してテレビや新聞に名前や顔が載ったのも一度や二度ではない。会長社長にも顔と名前を認識され、困りごとがあった時に私の意見を求めてもらえることもあった。むかついたことよりも良かったとことの方が多く思い起こされる。人間の記憶や感情が、いかにその時の環境や状態に大きく左右される都合のいいものであるか実感する。

正直なところ、「退職せざるをえない状況」が確定するまで、生後4ヶ月になる息子を抱えながら、「幼いうちから保育園に預けるのもかわいそうだし、仕事は辞めてもいいかも。むしろ辞めたいかも」くらいの心境だった。夫にもそう話した。バリバリ働いていた頃の私は、膨らんだ腹が一大イベントを終えてしぼむタイミングでどこかに封印されて、すっかり「母」になってしまっていた。

でも今回は、私が「退職」の選択をしたわけではない。「仕事辞めたいかも」と結果が同じであれ、不可抗力の都合によって、今までの仕事には戻りたくても戻れなくなったのだ。押し込められていたはずの、バリキャリ(もどき)だった自分が、何かの未練と将来の不透明さに、心の奥底で泣いている。

今回の「家族の都合」により、まず住処が変わる。私は全く土地勘のない友達もいない場所で、私の地元に少しは似たようで異なる訛りに囲まれて、初めての子育てに奮闘することになる。リモート復職とか他オフィスに異動できたとしても、それはもう大変な毎日だったであろう。でも大変だったとしても、復職さえすれば、産前に築き上げた会社というコミュニティがきっと私の心の支えになった。だけどそれはなくなる。なくなった。

失ったものを嘆いても仕方ない。ラーメンでも食って寝て忘れようぜ。と割り切れる白黒ハッキリした性格だが、今はまだ悲しい。このご時世、景気的な意味合いで正社員の再就職は厳しくなるだろうし、二人目の子供が欲しいと考えれば再度の産休・育休・そして時短勤務を前提の就職活動も極みオブ困難。うあー。そんな大変なことやりたくない。では扶養内パートか。これまで描いていた人生には出てこなかったワードだ。夫に養われながらでは、S席でミュージカルを観に行きづらくなるんじゃないか。なんて不安が真剣に芽吹く。

まあ、気持ちを落ち着かせるためにごちゃごちゃ書いてみたけど、環境順能力の極めて高い私なのだ。自分で言うのも何だが、もう少し時間が経てば、「これは一つの転換期であり仕事を離れ育児に専念するのも良い経験になる」とポジティブに受け止め落とし込むことができる逞しいおなごなのだ。大丈夫。新生活、きっと楽しいよ。

今はもう少し「ああ、こういう感じって、春だなあ」なんてぼんやりしていよう。