拝啓
少しずつ春が近づくこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
息子はまもなく1歳3ヶ月になります。
彼のよだれは相変わらずとめどなく垂れ続け、毎日10枚以上もスタイを交換しています。
なんでもかんでも口に入れる時期のピークは過ぎ去った気がしますが、大好きな絵本のページを、時たま未だに食べてしまいます。
先日はダイニングチェアのクッション部分を、かじって食べていました。
食欲は旺盛、何でも食べてくれるので作り甲斐がありますが、食前には「早く」と泣き叫びイスに座るなり「いただきます」、食後には「もっと」と号泣してごちそうさまを拒否します。
唐突に、いまの私の気持ちをあなたへ伝えたくなりました。
ふと思い馳せると、つかまらずに立ち上がった瞬間も、手放しであるき始めたのも、前に進み始めたハイハイも、前に進めなくて腹這いのまま飛行機のように両腕を広げて体を揺らしていた時期も、寝返りが打てなくて仰向けに過ごしていた姿も、膝の上で離乳食を食べ始めた頃も、一生懸命首を支えて抱っこし続けた夜も、2〜3時間おきの授乳も、ついこの前のことのなのに、もう鮮やかには思い出せなくなっています。
よだれはいつ止まるのか、ご飯が静かに待てるようになるのか、スプーンは上手に持てるようになるのか、意味のある単語を喋り始めるまでどのくらいか、「先」を待っているシーンは、いまの私の毎日にたくさんあります。きっとあなたの毎日にも溢れていることでしょう。
もちろん、あなたが、よそのかわいい子たちと自分のかわいい息子を比較して不安が募ったりしないであろうことは、私はよく知っています。だって、これまでの私が大して心配してこなかったのですから!
でも、不安に思ったり心配したりといった感情でないにしろ、未来に目を向けるなんて、何だかもったいない気さえしてしまうのです。
だって、息子は、毎日毎日、私がとうてい追いつけないほどの素晴らしいスピードで成長するのです。
私が想像しうる「先」なんて、いつの間にか、あっという間に通り過ぎてしまうのです。
部屋中よだれの匂いがするような感覚さえ抱く、この毎日で、「あ」とか「え」とかで充分に要求を伝えようとする小さな息子をぎゅっとしていたい。もっともっと、喋れなくったっていい。あんよはまだ「よちよち」でいいし、成熟していない屈伸運動でいつまでもリズムに乗って欲しい。夜通し寝れなくていい、ママを探して泣くあなたの手を握りたい。嬉しい時に「あ!」と言って笑うあなたを抱きしめていたい。
だけど、「ママ」とはっきり呼ばれる日が楽しみだし、公園を一緒に走りたいな。お砂場遊びができるかな。上手にスプーンとフォークを使って、ひとりで食事ができるようになるかな。「おはよう」と「おやすみ」が言えるようになるかな。
健やかな成長を喜び、あっという間に見えなくなった彼の影を思い出して切なくなるの繰り返しです。
どうか少しでも多く、今の息子を覚えておいてください。すぐに大きくなる小さな体を、たくさん抱きしめてください。あんなにたくさん抱っこしたのに、もう懐かしくて懐かしくて、かないません。
敬具